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大阪高等裁判所 昭和57年(ネ)1698号 判決

第一〇九九号事件控訴人・第一五〇六号事件被控訴人・第一六九八号事件附帯控訴人、第一審原告 的場武夫 ほか四名

第一〇九九号事件被控訴人・第一五〇六号事件被控訴人、第一審被告 国

代理人 饒平名正也 久徳繁雄 ほか二名

第一五〇六号事件控訴人・第一六九八号事件附帯被控訴人、第一審参加人 杉本義明

主文

第一審原告らの本件各控訴をいずれも棄却する。

第一審原告らの当審において追加した第一審被告に対する各請求をいずれも棄却する。

第一審参加人の本件控訴を棄却する。

控訴費用は第一審被告について生じた分を二分し、その一を第一審原告らの、その余を第一審参加人の負担とし、第一審原告ら及び第一審参加人について生じた分は各自の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  第一審原告ら

1  控訴の趣旨(昭和五七年(ネ)第一〇九九号事件)

(一) 原判決を取り消す。

(二) 第一審被告は原判決添付別紙図面表示纒向川岸堤防上に所在する欅四本(同図面にA、B、C、Dと表示のもの、以下本件欅という)を切除せよ。

(三) 右切除ができないときは、第一審被告は本件欅からの落葉、折枝が原判決添付物件目録(一)記載の土地(以下本件土地という)内及び同物件目録(二)記載の家屋(以下本件建物という)上に飛来するのを防止するため必要な施設の工事をせよ。

(四) 当審における追加的請求として、

第一審被告は第一審原告らに対し、

(1) 金八八万円及びこれに対する昭和五七年六月一日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(2) 昭和五七年一〇月二〇日から(二)項の切除又は(三)項の工事をするまで毎年一〇月二〇日から一二月一〇日に至るまでの間、一日金五〇〇〇円の割合による金員を支払え。

(五) 訴訟費用は第一審被告の負担とする。

(六) (四)項につき仮執行の宣言。

2  控訴の趣旨に対する答弁(昭和五七年(ネ)第一五〇六号事件)

(一) 主文三項と同旨

(二) 控訴費用は第一審参加人の負担とする。

3  予備的附帯控訴の趣旨(昭和五七年(ネ)第一六九八号事件)

(一) 原判決中、第一審原告らと第一審参加人に関する部分のうち、第一審原告ら敗訴部分を取り消す。

(二) 第一審参加人は本件欅を切除せよ。

(三) 右切除ができないときは、第一審参加人は本件欅からの落葉、折枝が本件土地内及び本件建物上に飛来するのを防止するため必要な施設の工事をせよ。

(四) 当審における追加的請求として、

第一審参加人は第一審原告らに対し、

(1) 金八八万円及びこれに対する昭和五七年六月一日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(2) 昭和五七年一〇月二〇日から(二)項の切除又は(三)項の工事をするまで毎年一〇月二〇日から一二月一〇日に至るまでの間、一日金五〇〇〇円の割合による金員を支払え。

(五) 訴訟費用(附帯控訴費用を含む)は第一、二審とも第一審参加人の負担とする。

(六) (四)項につき仮執行の宣言。

二  第一審被告

控訴の趣旨に対する答弁

1  昭和五七年(ネ)第一〇九九号事件

(一) 主文第一、二項同旨。

(二) 控訴費用は第一審原告らの負担とする。

2  昭和五七年(ネ)第一五〇六号事件

(一) 主文第三項同旨。

(二) 控訴費用は第一審参加人の負担とする。

三  第一審参加人

1  控訴の趣旨(昭和五七年(ネ)第一五〇六号事件)

(一) 原判決中、第一審参加人敗訴部分を取り消す。

(二) 第一審参加人、第一審原告ら及び第一審被告の間で本件欅が第一審参加人の所有であることを確認する。

(三) 第一審原告ら及び第一審被告は、本件欅を伐採してはならない。

(四) 控訴費用は第一、二審とも第一審原告ら及び第一審被告の負担とする。

2  予備的附帯控訴の趣旨に対する答弁(昭和五七年(ネ)第一六九八号事件)

(一) 第一審原告らの本件各附帯控訴をいずれも棄却する。

(二) 附帯控訴費用は第一審原告らの負担とする。

第二当事者らの主張及び証拠関係は、次に付加、訂正するほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

一  原判決の付加、訂正

1  原判決五枚目裏一〇行目の「約二メートル」を「二、三メートル」と、同行目から末行にかけての「BC」を「CD」と、末行の「約一・五メートル」を「一メートル」と各改める。

2  同八枚目表九行目冒頭の「よつて」の次に「第一審参加人は、」を加える。

3  同八枚目裏三行目の「1の事実は」の次に「、本件欅が自然に生えたことは認め、その余は」を加える。

4  同九枚目裏二行目の「前記」の次に「(一四三号事件)」を加える。

5  同九枚目裏五行目冒頭の「よつて」の次に「第一審原告らは、予備的に第一審参加人に対し、」を加える。

6  同九枚目裏九行目の「事実は」の次に「、本件欅が桜井市大字箸中一一二六番山林一四八平方メートルの土地に自然に生えたことは認める、本件欅の樹高、目通廻尺は不知、その余は」を加える。

7  同一〇枚目表二行目の「一二号証の一ないし六」の次に「、第一三号証、第一四号証の一、二」を加える。

8  同一〇枚目表九行目末尾の「あること」の次に「及びその撮影者が田川和幸であること」を、一〇行目冒頭の「は認め、」の次に「その撮影年月日は不知、」を各加える。

9  同一〇枚目裏一行目の「一二号証の一ないし六」の次に「、第一三号証、第一四号証の一、二」を加える。

10  同一〇枚目裏三行目の「検甲号各証」を「検甲第一ないし第二三号証」と改め、同行の「認める」の次に「、その余の検甲号各証は不知」を加える。

二  第一審原告らの主張

(控訴及び附帯控訴による訴えの追加的変更にかかる請求原因)

1 本件欅は、毎年一〇月中頃から一二月中頃まで落葉し、折からの北西の季節風に乗つて、大量の落葉及び枯枝が第一審原告ら居住の本件土地、建物内に飛来し、散乱する。そのため第一審原告ら方では、右時期は毎日清掃をしているのであるが、しかし戸、障子を開放しておくこともできず、また屋根に落下したものは雨樋を塞ぎ、そのため雨樋が降雨毎に溢水して庭や建物を損傷し、殊に強風時には、折枝も飛来して屋根瓦を破損させ、雨洩れの原因となり、その地板を腐蝕させる等の多大の被害を受けている。

2 責任

(一) 第一審被告

本件欅及びその敷地は、第一審被告の所有、管理するところである。第一審原告らの損害は、第一審被告の本件欅の栽植又は支持について管理の瑕疵があることに起因するから、第一審被告は、国家賠償法二条一項により、右損害を賠償すべき義務がある。

(二) 第一審参加人

仮に本件欅及びその敷地が第一審参加人の所有、管理するところであるならば、第一審原告らの損害は、第一審参加人の本件欅の栽植又は支持について管理の瑕疵があることに起因することとなるから、第一審参加人は、民法七一七条二項により、右損害を賠償すべき義務がある。

3 損害

(一) 本件欅の落葉等は、毎年一〇月中頃から一二月中頃にかけてである。この間第一審原告ら方では、庭掃除のみで毎日二人が半日(したがつて一人一日)近い労力を必要とする。第一審原告らは、右の期間うち毎年一〇月二〇日から一二月一〇日までの五二日間につき、一日の清掃費として、少くとも金五〇〇〇円計金二六万円の損害を蒙つており、昭和五四年から昭和五六年までの三年間の合計は金七八万円となる。

また第一審原告らは、本件欅が切除される等の行為がされるまでの間、昭和五七年以降少くとも毎年一〇月二〇日から一二月一〇日までの期間落葉等の被害を継続して受けることは明白であるから、この間第一審原告らが蒙る一日金五〇〇〇円の割合の損害の賠償を予め請求する必要がある。

(二) 第一審原告らは、本件訴訟提起前に、二回に亘つて、本件欅伐採等の調停申立をしたが、第一審被告は、これに誠意のある回答をなさず、第一審参加人が、本件欅の所有権を主張したため、右調停は不調となり、本件訴訟の提起もやむをえないものである。

第一審原告らは、本件訴訟の提起、追行を弁護士である第一審原告ら訴訟代理人に委任し、日本弁護士連合会の報酬等基準規程に基づく謝金を支払う旨の約束をした。よつて第一審原告らは、その謝金のうち一〇万円の支払いを請求する。

4 よつて第一審原告らは、主位的に第一審被告に対し、予備的に第一審参加人に対し、それぞれ右3の(一)前段の損害及び(二)の損害の合計金八八万円及びこれに対し昭和五七年六月一日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払い及び右3の(一)後段の損害である昭和五七年以降主位的に第一審被告が、予備的に第一審参加人が本件欅を切除し又は本件欅の落葉、折枝が本件土地、建物に飛来するのを防止するため必要な施設の工事をするまで、毎年一〇月二〇日から一二月一〇日までの間一日につき金五〇〇〇円の割合による損害金の支払いを求める。

三  当審において追加された請求原因に対する認否

1  第一審被告

(一) 二の1は不知。

(二) 二の2の(一)を争う。

(三) 二の3のうち、第一審原告らが本訴提起前に二回に亘つて調停を申し立てたが、不調に終つたことは認めるが、第一審被告が誠意のある回答をしなかつたとの点を否認する。その余の事実は不知。

2  第一審参加人

(一) 二の1を否認する。

(二) 二の2の(二)のうち、本件欅及びその敷地を第一審参加人が所有、管理していることは認める。その余の事実は否認する。

(三) 二の3の(一)を否認する。

二の3の(二)を争う。

四  第一審参加人の主張

纒向川は元々堀下川であり、川床が浅かつた。そのため堤防の決潰事故が頻発した。そこで両岸の嵩上工事がなされ、西岸も序々に嵩上げされ、里道が本来ののり面であつた部分へ移動した。

また前記一一二六番山林は、南から北に向けやや傾斜しながら高くなり、原判決添付別紙図面表示の〈2〉〈ロ〉附近では、堤防面と周辺土地の高低差は殆んどなく、従つてのり面も小さかつたことが推測され、堤防敷は北に向つて細くなつていた。

五  新たな証拠関係<略>

理由

一  当裁判所も、当審における新たな証拠を加えてさらに審究するも、第一審原告らが当審において追加した請求を除くその余の請求及び第一審参加人の請求をいずれも認容し難いものと判断するのであつて、その理由は次に付加、訂正、削除するほか、原判決理由説示と同一であるから、これを引用する。

1  原判決一二枚目裏六行目の「北西」を「北東」と改める。

2  同一四枚目裏七行目の「三回の」を削除し、同行目から八行目にかけての「が序々に削られた結果」を「の嵩上工事により」と改める。

3  同一五枚目表二行目の「認められるものの」の次に「、これらの証拠及び原審における第一審参加人本人尋問の結果纒向川西岸の護岸状況を撮影した写真と認められる検丙第三〇ないし第三五号証によつては、第一審参加人の右主張を認めるに足りず、他に第一審参加人の右主張を認めうべき確証はない。かえつて前掲証拠並びに当審における第一審原告的場武夫の本人尋問の結果及びこれにより纒向川の護岸を撮影した写真と認められる検甲第一〇〇号証、第一〇二、第一〇三号証によれば、」を加え、同行の「他方」を削除し、三行目の「事実」から七行目の「認められる」までを「こと及び同河川の改修は、堤防の内側(水流の側)にコンクリート護岸、石積護岸を付加し、堤防を補強したに止まることが窺われる」と改める。

4  同一七枚目裏二行目の「本人尋問の結果」の次に「(ただし後記措信しない部分を除く)及び当審における第一審原告的場武夫の本人尋問の結果」を、四行目の「同人は」の次に「昭和四八年頃」を、五行目の「認めることができる。」の次に「右認定に反する原審における第一審参加人の本人尋問の結果の一部は措信できない。」を各加える。

5  同一九枚目表四行目の「ほか、本件欅」から五行目の「理由がない」までを「。そうすると、第一審原告らの第一審参加人に対する予備的反訴請求は、本件欅に対する第一審参加人の所有権が認められないことを解除条件とするものであるから、右反訴請求については判断する必要はないこととなる」と、六行目から七行目にかけての「弁論の全趣旨によりこれを放棄したものと認める」を「第一審参加人は本件欅に対する所有権を主張し、民訴法七一条により独立当事者参加をしたものであることは、その主張自体に照らし明らかであつて、その参加は何ら違法ではない。第一審原告らの右異議は理由がない」と各改める。

6  同一九枚目裏六行目の「第三五号証」の次に「、当審における第一審原告的場武夫の本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第一六号証」を加える。

7  同二〇枚目表二行目の「その」の次に「門との」を加え、三行目の「一一月上旬から同月下旬」を「一〇月下旬頃から一二月初旬頃」と改め、五行目の「落葉」の次に「、時には折枝」を加える。

8  同二〇枚目裏四行目の「により」を「が」と改め、同行の「破損する」の次に「程である」を加える。

9  同二〇枚目裏八行目の「落葉」の次に「等」を加える。

10  同二一枚目裏六行目の「樋」の次に「、殊に堅筒」を、七行目の「金網を張る」の次に「とか(ただしその張り方に工夫を要すると考えられる)、堅筒の頭部に落葉等の流入を防除する造作をする」を各加え、八行目の「可能であること」を「可能であると考えうること(当審における第一審原告的場武夫の本人尋問の結果中、それが不可能である旨の供述部分はにわかに措信し難い)」と改める。

11  同二二枚目裏五行目の「期待ともなつていること」の次に「、本件地域には多数の立木が生育しており、これらの立木の落葉も周辺に散るものであること」を加える。

12  同二三枚目裏五行目の「及び原告らの参加人に対する反訴の請求」を削除する。

二  纒向川は建設大臣が管理する一級河川であり、本件欅は同河川の堤防に自然に成育したものであることは、第一審原告らと第一審被告との間において争いがない。

右事実によると、本件欅は公の営造物と解せられる右堤防と一体をなしているものということができ、したがつてその設置又は管理に瑕疵が存在する場合は、これによつて生じた損害につき、第一審被告は国家賠償法二条一項により、損害賠償をすべき責任を負うこととなる。

しかしながら、本件欅の落葉等の本件土地、建物への侵入は、自然現象であり、前記のとおり、第一審原告らの受忍限度内にあるものであつて、これを違法なものと観念することはできないのであるから、これをもつて同法にいう営造物の設置又は管理の瑕疵があるものということはできない。

そうすると、第一審原告らが当審において追加した第一審被告に対する損害賠償請求は、その余の点につき検討するまでもなく、すべて理由がないといわなければならない(なお、第一審原告らが予備的附帯控訴により、第一審参加人に対しなす請求は、主観的予備的請求であるが、一般に主観的予備的請求が許容されない趣旨は、第二次被告の応訴上の地位を不安定にし、第二次被告の犠牲において原告の便宜を図り、原告の保護に偏し、不公平となることにある(最高裁判所昭和四三年三月八日判決最高裁判所民事判例集二二巻三号五五一頁参照)。したがつて主観的予備的に併合された被告が不当に不利益を受けず、応訴上不安定な立場に置かれてもやむを得ないと認められる場合は、右請求は許容されると解すべきである。これを本件についてみるに、本件における第一審原告らの予備的請求は、第一審参加人の独立当事者参加に対し、第一審参加人の主張を前提とし反訴請求として行うものであつて、第一審参加人に対し、これにより特に右のような不利益、不公平を与えるものではなくかつ応訴上の不安定な立場に立つことについてもやむを得ないものと認めうるから、第一審原告らの本件主観的予備的請求は許されるものと解するのが相当である。もつとも第一審原告の第一審参加人に対する本件予備的請求は、本件欅に対する第一審参加人の所有権が認められないことを解除条件とするものであるところ、本件欅に対する第一審参加人の所有権が前記のとおり結局認容できないから、右予備的請求につき判断する必要はない)。

三  以上の次第で、第一審原告らの本件各請求(当審において追加請求した部分を除く)及び第一審参加人の本件請求はいずれも理由がなく、これと結論を同じくする原判決は正当であり、第一審原告らの本件各控訴及び第一審参加人の控訴はいずれも理由がないからこれを棄却し、第一審原告らの当審において追加した第一審被告に対する請求は理由がないからこれを棄却することとし(なお第一審原告らの予備的附帯控訴は、第一審参加人の本件欅に対する所有権が認められないことを解除条件として申立てられたものであるところ、右条件成就により、その効力を失つた)、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、九三条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小林定人 坂上弘 小林茂雄)

別紙図面、物件目録(一)、(二) <略>

【参考】 一審判決(奈良地裁昭和五三年(ワ)第一四三号、同第二七八号、昭和五四年(ワ)第二二三号 昭和五七年五月二一日判決)

主文

一 原告らの被告に対する請求をいずれも棄却する。

二 参加人の原告ら及び被告に対する請求をいずれも棄却する。

三 原告らの参加人に対する反訴請求をいずれも棄却する。

四 訴訟費用中、原告らと被告との間に生じた部分はすべて原告らの負担とし、参加事件につき生じた部分は本訴・反訴を通じて、これを二分し、その一を原告らの、その余を参加人の各負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(一四三号事件)

一 請求の趣旨

1 被告は、別紙図面表示纒向川岸堤防上に所在する欅四本(別紙図面にA・B・C・Dと表示のもの以下本件欅という)を切除せよ。

2 右切除ができないときは、被告は本件欅四本からの落葉・折枝が別紙目録(一)記載の土地内及び同目録(二)記載の家屋上に飛来するのを防止するため必要な施設の工事をせよ。

3 訴訟費用は被告の負担とする。

4 仮執行宣言

二 請求の趣旨に対する答弁(被告)

1 主文一と同旨。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

(参加本訴事件)

一 請求の趣旨

1 原告ら、被告及び参加人の間で、本件欅四本が参加人の所有であることを確認する。

2 原告ら及び被告は本件欅四本を伐採してはならない。

3 参加に関する訴訟費用は原告ら及び被告の負担とする。

二 請求の趣旨に対する答弁(原・被告とも共通)

1 主文二と同旨

2 参加に関する訴訟費用は参加人の負担とする。

(参加反訴事件)

一 請求の趣旨

1 参加人は、本件欅四本を切除せよ。

2 右切除ができないときは、参加人は本件欅四本からの落葉・折枝が別紙目録(一)記載の土地内及び同目録(二)記載の家屋上に飛来するのを防止するため必要な施設の工事をせよ。

3 反訴訴訟費用は参加人の負担とする。

4 仮執行宣言

二 請求の趣旨に対する答弁

1 主文三と同旨。

2 参加反訴訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

(一四三号事件)

一 請求の原因

1 別紙目録(一)記載の土地は原告的場武夫の、同目録(二)記載の建物は原告ら五名の各所有であり、原告らは右土地建物(以下、「原告土地建物」という。)に居住している。

2 本件欅四本は、一級河川纒向川の西側堤防上に自然成育したものであり、従つて被告の所有(管理者は訴外建設大臣)である。

3 本件欅のうちA・Bは樹齢約九〇年に達し、目通廻尺約一・三メートル、樹高約三〇メートル、C・Dは樹齢約三〇年、目通廻尺約〇・七五メートル、樹高約二〇メートルに及び、毎年一一月ころの落葉期には北西季節風にのつてこれらの欅から大量の落葉及び枯枝が原告土地建物内に飛来する。

このため、原告らは右時期には戸障子の開放さえできず、また屋根に落下した落葉により雨樋を塞がれ、そのため降雨時毎に雨樋は溢水して建物を損壊し、強風時には枯枝まで飛来して瓦を傷め、原告らは屋根の葺代え、地板、梁の補修交換等を余儀なくされたほか、日々朽葉の清掃等に追われ、物心両面の被害は甚大である。

よつて、原告らは原告土地建物の所有権、妨害予防請求権に基づき又は人格権・環境権に基づき本件欅の伐採又はこれに代わる予防措置を求める。

二 右請求原因に対する認否

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2の事実も認める。ただし河川管理権限は建設大臣にあり、これを奈良県知事に委任しているものである。

3 同3の事実のうち、本件欅に関する事実は概ね認めるが、ABは樹高二八メートル、目通し約二メートルであり、BCは樹高一五メートル、目通し約一、五メートルである。その余の事実は不知。

(参加本訴事件)

一 請求の原因

1 本件欅は、いずれも参加人所有の桜井市大字箸中一一二六番山林一四八平方メートル(以下「参加人土地」という。)地上に生育し、従つて参加人の所有である。

2 仮に本件欅の成育地が纒向川西側堤防敷であるとしても、

(一)(い) 参加人の父訴外亡杉本豊明は、参加人土地につき所有権保存登記を経由した昭和一五年一〇月一一日、所有の意思をもつて平穏かつ公然に右土地に隣接する別紙図面〈イ〉〈ロ〉〈2〉〈1〉〈イ〉の各点を順次結んだ直線によつて囲まれた土地(以下「係争土地」という。)の占有を開始し、昭和三〇年一二月九日参加人は相続により同訴外人の占有を承継した。よつて参加人は昭和三五年一一月一〇日の経過により係争土地を時効取得した。また参加人は、参加人土地を相続によつて取得した昭和三〇年一二月九日、所有の意思をもつて平穏かつ公然に係争土地の占有を開始したものであるから、遅くとも昭和五〇年一二月九日の経過により右係争土地を時効取得した。

(ろ) しかして、右各占有開始時点における係争土地の形状をみると、同土地は既に昭和一五年の時点(遅くとも昭和三〇年の時点)で参加人土地と同様山林としての外観を有し、別紙図面〈イ〉〈ロ〉付近に垣根が設けられるなどして参加人土地と一体として利用され、堤防としての機能を果していなかつた。よつて被告(又は管理者)は右時点までに同土地の公用廃止の黙示の意思表示をなしたものと見做される。従つて係争土地は公共用財産ではあるが、取得時効の対象となるに何らの妨げはなく、参加人は本件訴訟において右取得時効(従つて本件欅の取得時効)を援用する。

(二) 仮に右係争土地地盤の取得時効が認められないとしても、本件欅は独立の取引対象となるだけの財産的価値(少くとも数十万円)を有するものであり、地盤と分離して独自の所有権の対象となりうるものであるところ、前記訴外人及び参加人は本件欅を自己所有地内に育成したものとして下刈、枝打等を行ない、これを撫育してきた。すなわち同人らは所有の意思で平穏かつ公然に本件欅の占有を開始し、前記昭和三五年一一月一〇日(遅くも同五〇年一二月九日)の経過により、これを時効取得した。参加人は本訴において右取得時効を援用する。なお本件欅は自然育成にかかるもので公共用財産ではないから、公用廃止は問題とならないものである。

3 しかるところ原・被告は本件欅が参加人所有であることを争い、原告らは一四三号事件においてその伐採を求めている。

本件係争土地を含む一帯は纒向景観保全地区に指定され、良好な景観の保全が期待されているところ、本件欅は著名な写真集などに再三登載され、同地区の良好な景観保全に資するところ大である。

右事実に照せば、原告らの被害は社会通念上甘受すべき受忍限度を超えていない。

よつて本件欅の所有権に基づき、右権利の確認を求め、あわせて右所有権の妨害予防請求権に基づき伐採の禁止を求める。

二 右に対する認否

(原告ら)

1 請求原因1の事実は否認する。本件欅の育成する土地は被告所有の纒向川堤防法面であることは明白である。

2 同2(一)(い)の事実は否認し、主張については争う。同(一)(ろ)の事実は否認する。係争土地は堤防としての形態と機能を具備しており、黙示的なものを含め公用廃止の事実はないから、同土地を時効取得することはできない。同(二)の事実も否認し、主張については争う。欅は土地の定着物であつて地盤の一部をなすものであり、これと切離して独自に取得時効を考える余地はない。

3 同3の事実のうち一四三号事件において原告らが本件欅の伐採を求めていること、同事件において右欅が被告の所有として争われていないことは認める。原告らの被害が受忍限度を超えていないとの主張は争う。

(被告)

1 参加人の請求原因1、2については原告らの認否と同じ。

2 同3の事実のうち原告らが本件欅の伐採を求めて一四三号事件を提起したこと、右訴訟中本件欅が被告所有として争われていないことは認める。

原告らの被害が受認限度を超えていないとの主張も認める。

(参加反訴事件)

一 請求の原因

1 前記一1及び3の主張を引用する。

2 仮に本件欅が参加人所有であるとすると右伐採義務又は予防義務は同人が負うところとなる。

よつて原告土地建物の所有権の妨害予防請求権又は人格権・環境権に基づき、本件欅の伐採を求め、これが不能の場合は落葉・朽枝の飛来を防止するに必要な措置を求める。

二 右に対する参加人の認否

前記一1の事実は認め、同3の事実は否認する。

第三証拠 <略>

理由

(全事件について)

一 別紙目録(一)記載の土地が原告的場武夫の所有であり、同目録(二)記載の建物が原告ら五名の所有であること、原告らは右原告土地建物に居住していることの各事実は当事者間に争いがない。

二 本件欅と原告土地建物の位置関係及び付近の状況について<証拠略>を総合すれば、以下の事実を認めることができる。

本件欅(及び係争土地)と原告土地建物、参加人土地等の位置関係並びに付近の状況は別紙図面のとおりである。すなわち、現場付近には約六ないし八メートルの巾をもつて北東から湾曲しつつ南へ流れる一級河川纒向川が存在し、同川を基準にすると、その西岸には、通称「堂の橋」付近から南方へ幅員約二メートル弱の里道(以下、「本件里道」という。)が川添いに延びており、右里道に接してさらに西側に本件係争土地があり、本件欅は右係争土地内に北から順次A・B・C・Dの順で成育している。後記参加人土地の北東角からは参加人又はその先祖の作成にかかる竹木・雑木製(自然生えのもの)の垣根が順次〈2〉〈ロ〉〈イ〉を経て〈1〉地点までほぼ直線にめぐらされており、このため係争土地と本件里道とは右垣根によつて画されている。参加人土地は、係争土地の更に西側一帯に広がつており(但し、参加人土地が係争土地を含むか否かはのちに検討する。)係争土地及びその西側一帯は竹、椿、雑木などの生繁る山林様を呈し、同付近は西側に向けてなだらかに傾斜している。参加人土地とその南側の田との境界線上にはコンクリート基礎とフエンスが設けられているが右は西から〈1〉地点に至るまでであつて〈1〉〈イ〉間は前記の通り竹木製の垣根となつており、右垣根は里道側(〈イ〉側)で高く西側(〈1〉側)で低くなつている。また〈イ〉〈1〉付近からはほぼ係争土地と同一の巾で前記里道添いに堤防のり面が南へ延びている。

同川西岸堂の橋以北の状況をみると、本件里道は同橋付近で比較的広い三角形の広場に連らなり、さらに同広場の北西へは五、六メートル巾の川添いの道路が延びているが、右広場及び右道路は堤防土手としての形状はなく、周辺土地との高低差は殆んど認められない。

一方堂の橋を隔てた東岸一帯は原告土地であり、同土地は直接川に接しており、東岸からみると纒向川は川床が周辺土地より低いいわゆる堀下川となつている。原告建物は前記堂の橋から空地をへだてその東北に建てられている。

以上の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

(参加請求及びこれに対する反訴請求について)

参加人は本件欅が自己の所有であると主張し、原、被告はこれを争うので、まず本件欅の所有権の帰属につき判断する。

一 係争土地の所有権帰属について

参加人は第一に係争土地が参加人土地の一部であり、従つて同土地の産物として本件欅も同人の所有である旨主張する。

前記認定事実によれば、係争土地の現況は垣根によつて囲まれ、西側に続く土地と同様の形状を呈しており、かつ参加人が参加人所有土地としてこれを占有していること従つて〈イ〉〈1〉以南の堤防敷とは外形を異にしていることが認められるが、他方原告的場武夫本人尋問の結果とこれにより真正に成立したことが認められる甲第五号証(奈良地方法務局桜井出張所備付の地籍図写)によれば、右地籍図は、付近土地の所在と形状を比較的正確に表示しているものと認められるところ、同図上、参加人土地と纒向川河川敷との間には明らかに堤防敷が介在するものと表示されており、表示にかかる右堤防敷幅員はその北端(現地に復元すると別紙図面〈2〉〈ロ〉付近)、参加人土地東南角(同〈1〉〈イ〉付近)及び参加人土地に南接する一一二三番土地東南角の各点において殆んど同一であると認められること、従つて現在〈1〉〈イ〉以南に存する堤防のり面がほぼ旧態を保つているものとすれば〈1〉〈イ〉以北にもこれと同一の巾をもつて〈2〉〈ロ〉付近に至るまで堤防敷が延びていることが窺えるところ、前記現存ののり面が本来の堤防敷を越えて西側に移動している事実を認めるに足る証拠は全くないこと、現況を詳しく検討しても、係争土地の巾は南から延びている現存のり面の巾とほぼ同一であるほか〈イ〉〈1〉間に設けられた垣根の形状は<証拠略>により明らかなとおり、川側が高く西側に低い菱形状を呈しており、地盤の傾斜なりに築かれていることが認められること、さらに右斜面は南側の現存ののり面のそれと酷似し、〈イ〉〈1〉以北(垣根内側)まで同様の斜面が連続していることが合理的に推認されることなどの事実を認めることができ、これらの事実に照らせば本件係争土地(少くとも本件欅の成育する地盤を含む係争土地の大部分、以下単に「係争土地」という。)は原・被告主張のとおり被告所有にかかる纒向川西岸堤防敷のり面に該当するものと認められ、参加人本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信し難く採用しない。

なお、参加人は、1纒向川の三回の改修により西岸堤防が序々に削られた結果、里道が本来のり面であつた部分へ移動した。2別紙図面〈2〉〈ロ〉付近では堤防と周辺土地の高低差は殆んどなく従つてのり面も小さかつたことが推測され、堤防敷は北に向つて細くなつていた、と各主張する。しかしながら、1については前掲証拠により三回に亘つて西岸護岸工事が行なわれた事実は認められるものの他方本件里道の形状は〈イ〉〈1〉の南と比べ係争地に接する部分からはむしろ川寄りとなつている事実が認められ、右事実によれば前記改修工事は川床部分ないし堤防護岸内のり部分の改修に止まり、これによつて本件里道を元来のり面であつた位置にまで移動させる結果を伴うようなものではなかつたものと認められる(仮に参加人主張どおりとすれば、本件里道は〈イ〉〈1〉以南の位置に比べそれ以北では現在の位置より西寄りになつていなければならない筈である)。また2については、なるほど〈2〉〈ロ〉付近では本件里道(従つて堤防)は周辺地盤との高低差が殆んど認められないこと参加人主張のとおりである。しかしながら堤高とその面積(巾)の問題は別個の事項であるから、堤高が低いほど(のり面を含む)堤防面積(巾)は狭くて済むとの一般的事実があるからといつて、直ちに本件堤防敷面積が現実にそのようなものであつたことの根拠とはなり得ない。そうして前掲甲第五号証の表示によれば堤防敷は〈1〉〈イ〉付近と〈2〉〈ロ〉付近において同程度の巾をもつものとして表示されていることが明らかであるから、右図面の表示に照らし、参加人の主張は理由がなく採用できない。

以上のとおり、係争土地が参加人土地の一部に該当する旨の同人の主張は理由がない。

二 係争土地の時効取得の主張について

前記認定事実によれば、係争土地は纒向川西岸堤防敷のり面であり、被告所有の公共用財産であることが認められる。そこで、まず係争土地が時効取得の対象となりうるか否かの点を検討する。

一般に、公共用財産といえども長年に亘り事実上公の目的に供用されることなく放置され、公共用財産としての形態・機能を全く喪失し、その物の上に他人の平穏かつ公然の占有が継続したが、管理者も右事実を黙認ないし承認し、もはやその物を公共用財産として維持すべき理由がなくなつた場合には、右公共用財産については黙示的に公用が廃止されたものとして、これにつき取得時効の成立を妨げないものと解せられ、この理は河川堤防敷(のり面)についても同様である。そこで右各観点から本件係争土地につき黙示の公用廃止があつたものといえるか否かを検討する。

まず係争土地の形態をみるに、前記認定事実によれば〈1〉〈イ〉付近においては南側に現存するのり面とほぼ同一の斜面形状を有し、係争土地全体も西側にゆるやかな傾斜となつていることが認められ、現在でものり面としての形態を止めていることが認められる。次に機能の面から見ると、のり面の機能は堤防に連続した斜面を形成することにより、堤防の強度を保持しもつて堤防のけつ壊を防ぐことにあるところ、係争土地は前記形状を保持することによつて右機能を現に果しているものと認められる。このことは、仮に係争土地斜面を削除したとすると堤防敷は本件里道敷のみとなり、しかもこれが垂直に切り立つた土手と化して序々に崩壊し、ついには堤防自体のけつ壊の危険を惹起することが容易に推測されることからも明白である。なお、〈2〉〈ロ〉付近においては周辺土地の地盤(従つて提頂)との段差が殆んど認められないこと前記認定のとおりであるが、これはのり面の形態が変化した結果ではなく、元来の土地高低差がそのようなものであつたことに由来しているものと認められるから、同所付近において係争土地はもともと低くなだらかなのり面を形成し、現在でもそれなりの機能を果たしているものと認められる。更に欅の成育している地盤に限つてみても同地は周辺土地と一体となつてのり面を形成しその機能を果たしているということができる。尤も前記認定事実と参加人本人尋問の結果によれば、係争土地は垣根に囲まれ参加人の排他的占有にかかるほか、同人は西側土地の土砂を一部係争土地上へ押しならした事実を認めることができる。しかしながらのり面の機能は前示機能に尽きるものであり、係争土地がのり面としての形態を止めていること前記のとおりであるから、その上にいかなる占有が設定されようと、また形状が従前と機分異なつていようと、これらによつて右本来の機能に何ら消長を来たすものではない。そうすると、本件係争土地は堤防のり面としての形態を有し、のり面としての機能を果たしているものということができるから、その余の点につき判断するまでもなく、公用を廃止されたものということはできず、従つて同土地については時効取得の成立する余地はない、というべきである。

よつて参加人のこの点に関する主張も理由がない。

三 本件欅のみの時効取得の主張について

最後に、参加人は係争土地の時効取得が認められないとしても、本件欅のみを時効取得した旨主張する。しかしながら本件欅が自然生えにかかるものであることは当事者間に争いがないところ、自然生えの樹木の所有権は、その発芽と同時に地盤所有権の内容の一部となり、土地所有権にいわば吸収されてしまうものであるから、これを動産として時効取得する場合は格別(ただし、この場合は占有開始時に動産となつていることすなわち伐採されていることが必要であるが、本件については右要件を備えていないほか、参加人の主張が動産としての取得時効にあるとは到底解しえない。)、「成育中の樹木」として時効取得するためには、少くとも右樹木の生育に必要な範囲の地盤につき所有権を取得するかもしくは樹木発芽前に同地の排他的利用権原を取得することが必要不可欠であると解される。しかるに地盤(本件欅の生育地のみについても)については時効取得が認められないこと前記のとおりであり、後者については何らの主張立証も行なわれていないから、結局本件欅についても参加人の時効取得の主張は理由がない。

四 結語

以上のとおり本件欅は参加人の所有とは認められないから右所有を前提とする同人の請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がないほか、本件欅が参加人の所有であることを前提とする原告の参加人に対する反訴請求も理由がない(なお、原告らは、本件参加申立に対し、異議を述べているが、弁論の全趣旨によりこれを放棄したものと認める。)。

(一四三号事件について)

原告らは、本件欅からの落葉等による被害が甚大である旨主張し、原告土地建物所有権又は人格権・環境権に基づき、第一次的には右欅の伐採を、第二次的にはその予防措置(ナイロン製ネツトを被せること)を求めるので右請求の当否につき検討する。

一 原告らの被害について

<証拠略>を総合すれば、以下の事実を認めることができる。

本件欅のうちA・Bは約九〇年生で樹高は少くとも約二八メートルであることに原被告間に争いがなく、またC・Dは約三〇年生でその樹高は少くとも一五メートルであることに前同様争いはないところ、これら欅と原告土地建物の位置関係は前記認定のとおりである。すなわち本件欅はいずれも原告土地建物のほぼ真西に生育し、その間の距離は約一五ないし二〇メートルである。本件欅の落葉期は毎年ほぼ一一月上旬から同月下旬にかけてであり、前記位置関係、季節風の風向、本件欅の樹高等に照らすと本件欅からの落葉が纒向川を超えて原告土地建物内に落下することが合理的に予測されるほか、現実に検証時(昭和五三年一二月一日)にも原告宅前庭、門前、庭内、勝手口に比較的多くの落葉が認められた。また<証拠略>によれば落葉は原告建物上にも飛来し、屋根瓦のくぼみに集まり、さらに雨樋内に落下してこれを塞ぎ、このため降雨時に雨樋からあふれ出た雨水により本屋北側下屋にしみが生ずるなどの被害の発生が認められ、さらに落葉期には原告らにおいてその清掃等を余儀なくされるなどの被害の発生を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

尤も朽枝の飛来により瓦を破損するとか前記雨水により梁を損傷したなどの事実は<証拠略>中これに添う部分もあるが右は措信し難く、結局これを認めるに足る証拠はない。

二 そこで右被害を理由として本件欅の伐採又は落葉飛来の予防措置を求めうるか否かを検討する。

思うに他人が物権を有する土地建物の支配領域内へ、他の特定の者が外部から騒音・振動・媒煙塵あい等を侵入させることは、右物権の侵害であり、このような侵害が継続する場合には右物権保有者は物権的請求権に基づき、その差止(原因自体の除去又は予防措置)を求めうるものと解することができる。しかしながら、右差止請求権は被害の発生があればいかなる場合にも直ちに認められるものではなく、社会生活を継続するうえで相隣者又は近隣者間に不可避的に生ずる軽微な侵害に対しては、当初から社会通念上相互の受忍が要請されるものとして(いわゆる受忍限度内に止まるものとして)その差止を求めることはできないものといわなければならない。そうして被害が右受忍限度内に止まるか否かに関しては、被害の態様・程度、侵害の態様と性質、被害及び侵害の回避可能性及びその方法、地域の情況その他諸般の事情を総合的に考慮して判断されるべきものと解される。

これを本件についてみるに、原告らの被害は前記認定のとおりであり、必ずしもこれを無視しうるものと評価することはできないが、被害の時期は高々一年間にわずか一か月足らずであり、落葉の清掃等によつて容易に除去しうるほか、樋の閉塞による雨水の浸出についても樋上に金網を張るなどの比較的簡易な設備によりこれを予防することが可能であること、一方本件侵害は落葉樹からの落葉であつていわば自然現象に他ならず、管理者又は所有者の故意・過失に基づく性質のものでないこと、これを回避することは不可能ではないが、その方法としては本件欅の伐採かナイロン製ネツトの設置等をおいて他にないが、これらは前記被害と比較して社会通念上いささか権衡を失する過大なものであると解されるほか、後記認定の景観保全の観点からみて相当な方法とも考えられないこと、他方<証拠略>によれば、本件欅の成育地を含む付近一帯は、奈良県自然環境保全条例及び同施行規則により纒向景観保全地区として指定され、奈良県民のいわば共同の財産として自然の美しさを守り育てるべき地区とされていること、本件欅はそれ自体が同条例上の保護樹木として指定されているものではないが、著名な写真集・紀行文等にしばしば登載され、纒向の代表的景観として常にその一部を構成しているものと認められること、従つて本件欅を現状のまま保持することは参加人のみならず著名写真家その他の自然愛好者にとつて切なる期待ともなつていることなどの事実が認められる。これら各種の事情を勘案するときは、前記原告の被害は未だ受忍の限度に止まつているものというべく、右被害の事実のみをもつて、本件欅の伐採又はその予防措置を求めることはできないものと解するのが相当である。

なお、原告は、前記落葉等の差止を人格権又は環境権に基づき請求し得るものと主張するけれども、元来、右各権利は生命・身体・健康保持その他人の生活条件の侵害が、当該被害の内容や侵害の態様等からみて実定法上、何らかの権利内容として構成し難い場合に、なおそれが法的保護に値するとして認められる権利であるから、直接所有権に基づく物権的請求権により保護をうける以上、更に、人格権又は環境権に基づき、これを保護する必要性は全くないものと解される。もつとも、一歩を譲り、仮に、人格権等の権利内容として本件被侵害利益が保護を受けうると解したとしても、その侵害の程度が社会通念上当該権利者の受忍の限度内にある限り、その差止めを求め得ないことは、所有権における場合と何ら異なることがないものと解され、結局本件被害は前示のとおり受忍限度内にあるものとして右差止めを許容することはできないといわざるを得ない。

よつて、原告の被告に対する請求はいずれも理由がない。

(結論)

上叙のとおり、原告らの被告に対する請求、参加人の原・被告に対する請求及び原告らの参加人に対する反訴の請求はいずれも理由がないのでこれらをすべて棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条一項、九四条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 仲江利政 山田賢 三代川俊一郎)

物件目録 (一)、(二) <略>

別紙図面〈省略〉

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